踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

『片隅02』

 

 

kaji-ka.jp

『片隅』第一号は楽しい書物だった。ヴァラエティに富んでいる(悪く言えば玉石混交とした)雑多さが魅力的な一冊だった。第二号はどう出るか楽しみにして献本に応募してみたのだが、読んでみると「なるほど、こう来るか」と唸らされるような出来になっていた。今回もヴァラエティに富んでいるという印象は変わらない。読み切りの短編で勝負しているところは第一号のスタンスを引き継いでいる。また、無名の(失礼!)新人の小説を積極的に載せて前面に押し出しているところも変わっていない。今回は「読ませる」ことに拘ったそうだが、その目論見は成功しているのではないか。第一号同様、楽しく読むことが出来た。

改めて確認しておくと、『片隅』は九州だけで流通する文芸誌であるらしい(どうしても九州以外に住んでおられる方で手に入れたい方は、ネット通販を利用されたい)。こんなにグローバル化が進む中そんな道を歩むのは言うまでもないがある種の実験である。もっと言えば自分で自分の首を絞めることに繋がりかねない。なにしろ「読まれない」ことを選ぶわけだから。九州を訪れてでも本書を読みたいと思わせたい、九州を魅力的な地域にしたいという野心からこうしたスタンスを選んでおられるわけだが、それは成功しているのではないかと第一号や本書の達成を読んでみて思わされる。本書を読んでまだ行ったことのない九州に思いを馳せてしまった。

第一号は萩原正人氏の「ダメアナ」という力作が掲載されており、その一作を載せただけでも大手柄ではないかと思ってしまったのだが本書でも力作は掲載されている。九州在住の作家であり泣く子も黙る SF 界の重鎮である梶尾真治氏の「エマノン」シリーズの新作が短編として収められているのだ。私は不勉強にして「エマノン」連作を読んだことがなかったのだが、なかなか叙情的で良い作品だと思った。これに関しては「エマノン」を知る人なら――もっと言えば SF に詳しい人なら――より深く楽しめるのではないか。私はそのあたりド素人なので中途半端な消化で終わってしまったという残念さを感じたことも確かだ。

しかし、それにも増して興味深かったのは片瀬チヲル氏の「かみまい」という作品だ。本書の集中で一作選べと言われたら、私はこの作品を推す(梶尾氏の作品を抜いてでもこの一作を薦めたい)。私好みだからだと言われればそれまでなのだけれど、日常の中に入り込んだ非日常を巧みに描き切っているという印象を抱いたのだ。本の処分に困っているブッキッシュな主人公のところに見知らぬ少女が現れて……というスジなのだけれど、なかなか読ませる。片瀬チヲル氏に関してはなんの知識もなかったのだけれど、まだまだ若い作家らしい。今後この作家は大化けするのではないだろうか。あるいは小山田浩子氏や吉田知子氏のように……と書くと過褒だろうか。デビュー作『泡をたたき割る人魚は』を楽しみに読みたい。

第一号と同じく谷川俊太郎氏が寄稿しており、茨木のり子氏などメジャーな作家も寄稿している。その一方でクランチマガジンから現れた新人R眞氏も寄稿しており、今回もネームバリューで売らんかなという甘えたところは微塵も感じられない。野心的で挑戦的なスタンスは第一号からそのまま受け継がれている。私自身知らなかった作家を多数知る切っ掛けになり、果たして読むべき価値があるかどうか……と失礼なことを考えてしまっていたのだけれど、フレッシュな作品(必ずしも新人の作品に留まらず、ヴェテランの方の作品も含めて)と遭遇することが出来たのは僥倖だった。これは是非第三号も読ませていただきたいところだが、九州まで行かなくてはならないというのがもどかしい。

全体を丸ごと楽しめたかというとそうでもない。第一号を読んだ時にも思ったことだけれど、「何故こんな作品が?」と思われるものもあったことも確かだ。また、もっと九州のローカル色を出した方が面白かったのではないかとも思う。ただ、そうなると今度は読者を選び過ぎているという話になるのでそのあたりが判断に困る。これに関しては『片隅』制作陣も実験中ということなのだろう。今の段階で早急に評価を下してしまうのはもったいないとも思われる。これもまたもどかしい……そう思いつつ、ヴァラエティに富んだ――ユーモア/スラップスティックから幻想小説まで幅広い――作品が収められた本書を私は読み終えた。

あと、もう少し欲を言えば折角なのだから九州の名所を収めた写真などヴィジュアル面でも拘って欲しい……とまあ、贅沢を言い出せば止まらない。こんなに未知の可能性を秘めた文芸誌に関しては、そのあたり欲が出てしまうようだ。念の為に書いておけば、第一号を読んでいなければ本書を楽しめないというわけではないので悪しからず。第二号は第二号で充分面白い。例えばインディーズの文芸誌として『たべるのがおそい』などのようなものが少しずつ刊行されているが、それにも野心は比肩し得るものではないか。この試みがもっと広く知られ、刺激的な作品が掲載されることを望みたい。兵庫の「片隅」から密かに応援している。