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踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

ピッツァ

日常のような創作
東京の野蛮

東京の野蛮

 

煩先生から教えていただいた話。

「前に地元に宅配ピッツァのお店がオープンしたんですよ。僕の住んでいるところはあまり交通の便が良くないところなんですけれど、僕の家まで宅配してくれるとのことでした」

ポストに投入されていたチラシでそのお店を知ったという。名前を聞いたこともないお店だったそうだ。つまりチェーン展開されているような店舗ではなかったのだ。調べてみたけれどグーグルにさえ引っ掛からない。妙な話だが、煩先生の住んでいる地域だけで細々と経営されているものだったのかもしれない。コンビニにもそういうお店は沢山ある。

「それで、そのチラシを見て興味本位で頼んでみたんです。ピッツァは好きだし」

煩先生が頼んだのはミックスのピッツァだった。電話口で若い青年が松岡修造張りにハキハキ対応してくれたという。宅配までどれくらい時間が掛かるのかなと不安もあったが、時間もそんなに掛からなかった。

「ただ、実際に届けに来たのは」

中年の女性だった。やる気のなさそうな、目が虚ろで顔色の悪い姿が印象的だったそうだ。「ミックスのピザ、届けに来ました」と言ってピッツァを無表情で差し出した。

「ここからがサンドウィッチマンの漫才っぽくなるんですけれど」

届いたミックスのピッツァを、先生は箱を開けて確かめてみて驚いた。出来たてホヤホヤの、チーズが蕩けるピッツァだ。それは良いのだが、指の第一関節から先が十数個入っている。どう見ても人間の指だ。太さも形状も動物のものとは思えない。大人の男女の指だ。

「あの、こんなに指が入っているんですけれど」

帰ろうと背を向けていたおばちゃんは「ああ?」と不快そうな声を出した。

「いや、これ指ですよね。人間の指じゃないんですか。返します」

「お客さん、チラシを見て注文して下さいましたか?」と相手は無愛想に返す。「トッピングに入っているものは『ユビ』ですよ」

それでチラシを見る。

「『エビ』と『ユビ』って、カタカナにすると似てますよね。カタカナで僕が『エビ』だと思って読んだものは確かに『ユビ』だったんです。字が小さかったから分かりづらかったんですね」

おばちゃんは有無を言わさず「じゃ、確かに届けましたからね」と言って帰って行った。煩先生はそのピッツァをしげしげと見てみた。ソーセージのようにも見えたそうだが指紋らしき跡は残っている。爪を剥がした跡も骨を抜いた跡も残っている。

「僕の錯覚でありこれは模造品で、なにかのタチの悪い冗談なのかなあと思って食べてみたんですけれど、ソーセージの味はしなかったです。まさかとは思いますけれど本物の指だったのかも。もちろん人肉を食べたことはないんですけれど、変な味がしました。あんまりピッツァ自体も美味しくなかったです」

そのピッツァ屋は程なくして跡形もなく潰れてしまった。

「どうやってあれだけの指を調達したのか興味はありますね。そそられるものがあります。もちろんあれはただ単に作りものだったんでしょうし、特にあのピッツァを食べたことで体調がおかしくなったとかそんなこともないんです。ただ……」

そこで煩先生はひと呼吸置いてこう仰った。

「あれ以来、タンスやドアの角に足の小指をぶつけてしまう回数が異様に増えました」