踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

スープ

TEAM ROCK

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misty さんから聞かせていただいた話。一部差別的とも受け取れる箇所があるため、私の判断に依りボカして書いているところもあるのだが……。

「友達が、どうしてもって言うから知人の知人を介して、カネを貰って外人を部屋に泊めることにしたそうです。今で言う『民泊』ってやつですね。まあ、手っ取り早く稼げるとでも思ったんでしょうね。既に充分稼いでいたのに、欲が出たんですかね(笑)」

早速とある国の方が――私の判断に依り、その方々の出身国名までは明かせないが――来日されたのだという。ふたりだった。ひとりは立派な大人。私と同年代かそれより年上の方らしい。もうひとりは子どもだった。五歳だ、と聞いていたという。

「もっとも、彼は子どもが居なかったからか正確な年齢は分からなかったそうです。もっと幼いんじゃないかな、発育が遅れているのかな……と思ったらしいですけれど」

そのふたりは、見たところ明らかに不潔な格好をしていた。無銭旅行、というやつなのだろうとその友達は睨んだという。そういうことは事前に知らされてなかったので、なんらかのトラブルがあったに違いない。

「こりゃドジを踏んだな、って思ったらしいですよ。下手するとそいつのお金とか私物とか盗まれるんじゃないかなって……そんなこと前もって考えておけよ、って話ですよね。まあ、そいつの家にあるものはなんの値打ちもない本ばっかりなんですけど(笑)」

取り敢えず垢とフケが酷いので近所の銭湯を案内した。その友達の家にも風呂はあるが貸すのは気が引けたという。それでふたりが風呂に入っている間、彼は脱がせたその衣服をコインランドリーで洗うことにし、ふたりのためにジャージを渡したのだそうだ(子ども用のジャージは事情を知っていたので事前に用意していた)。

「結局、風呂に入ってさっぱりして、それで一日が終わりました」

一段落するとお腹が空いてしまった。

「考えてみれば来日してから銭湯に連れて行ったりコインランドリーに行ったりしてるわけですから、あっという間に時間なんて経ってしまいますよね。メシを食ってなかったんです」

それで彼が近所のファミレスに彼らを連れて行こうとしたところ、そのふたり組の母国で使われている独特の異国語で「貴方は風呂に入らせてくれたし、服を着せてくれた。だからお礼を兼ねてご馳走をしたい」とオファーがあった。それならめっけもんだ。まあ風呂代と洗濯代は嵩んだが、それも宿泊料に上乗せするという形で落ち着いたらしい。

「そいつが独身だってことは言いましたよね? 近い将来結婚することを見越して見つけた物件なんで、部屋自体は広いんですよ。キッチンは独立してそいつの部屋と別れているので、そいつはふたりをキッチンに案内したんです。そいつは次の日までに返さないと行けない本があるのでどうしてもその本を読みたかったから、ふたりに自由にキッチンを使わせることにしたらしいです。キッチンには金目のものはないし」

それでふたりに作業をさせて彼は本を読んでいた。だが、突如短い悲鳴のような音が聞こえた。

「子どもが怪我でもしたのか、と思ったそうです。それで行ってみると」

子どもの姿がない。キッチンでは男が料理を作っている。彼は見逃さなかった。まな板の上にノコギリが置かれていたのだ。血塗れになっている。

「ゾッとしたそうです。でも男は気づいている風ではなくてそいつに背を向けて、スープを鼻歌交じりで作っていたそうです」

もちろん惨事を推測したらしい。それで、これは一大事だ、警察に通報しないと行けないと思って充電中のスマホを取りに行ったところ、ドアを開ける音がした。男の連れていた子どもが帰って来たのだ。友達が着せた服を汚さずに着ている。手にはスーパーの袋。ずっしりとなにかが入っている。

「それがなにかを確かめようとしたんですね。すると、男が振り向いて。で、そいつが男を見ていることを知ると、急に目つきが変わってノコギリを隠したんです。血塗れのまま大きな鞄の中に」

それで、彼は怖くなって料理の作業を見るのを止めたという。そして部屋に戻った。本は読めなかった。まあ、もっともな話だ。男は暫くして隣室の彼を呼び、テーブルに野菜と肉のたっぷり入ったスープの入った鍋を差し出した。

「スープは真っ赤だったらしいです。トマトを入れた特製のスープなんだ、って話でした。恐る恐る食べたらしいですが、これが殊の外旨かったそうで……肉は食べたことのない味がしたそうです。敢えて言えば牛スジに似てたって話してましたけれど」

ふたりは翌日の朝に笑顔でお礼を言って、宿泊料にチップを乗せた料金を払って他所に行ってしまった。盗まれたものはない。立つ鳥跡を濁さず、というやつだ。キッチンも綺麗に整理されていた。ただ、血の匂いだけはなかなか消えなかったという。その後、帰国したふたりからお礼とまた行きたいのだがという内容のメールが届いた。

「そいつは結局引っ越しちゃいました。色々あったんでしょうね」

結局なんのスープかはそのふたりの出身国近辺の情報をググっても分からなかったという。旅行している間身につけたサバイバル術ではないか、と私が言うと「戦後食料がなくて犬を食べてた人が居るって聞いたことはありますけれど……カピバラでも食わされたんでしょうね。カピバラは旨いって聞きますから。そうしましょう」と言って misty さんはこの話を〆た。