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踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

スマホ

日常のような創作
Happy Ending [ボーナストラック2曲のダウンロードコードつき]

Happy Ending [ボーナストラック2曲のダウンロードコードつき]

 

今時なにを言っているんだと呆れられるかもしれないが、断酒会で「ガラケーがなくなるらしい」という話題で盛り上がったので今日はスマホの話をしよう。また少々(かなり?)下品な話になるが堪忍していただきたい。

私は去年の夏に、かれこれ三年間愛用していた時代遅れのガラケーが壊れたのを機に思い切ってスマホを買った。どっちにするか迷ったのだけれど、外出先では音楽は聴かないのだしと思って iPhone ではなく Android にした。それが良かったのかどうかは分からない。

私はパソコン選びにしてもスペックにはあまり拘らないのだ。話は脱線するが、その昔巷では恐ろしく評判の悪い SOTEC のパソコンを家電店で薦められるがままに買ってしまって「大して安くないのにお前というやつは」と当時の知人に呆れられたことがある。その頃と比べて私はその面では成長というか進歩はないのだった(ちなみにそのパソコンは言われているほど壊れやすいものではなく、件の知人とは色々あってこちらから絶交した。今は Gateway のパソコンを使っている)。

話を元に戻せば、スマホにアプリを入れたら自宅に帰った時女性の音声で「おかえりなさいませ」とか「今日は何千何百歩歩きました」とか、「今最も検索件数が急上昇しているワードは何々です」とか「明日は曇り時々雨です」とか時折喋るようになった。外出先でそんなことを言い出したらどうしようかと気になったのだけれど、スマホはどうやら自宅の場所と外出先の区別を見極めて喋るらしい(私はそんな基礎的なことも知らないのだった)。

スマホはそんな風にして私の生活に馴染みつつある。

相互フォロワーの籠原スナヲさんとお会いする機会があった。スナヲさんは女性なのだが(と書くとこんな時代に古臭い差別的な言い方になってしまうが)料理が苦手とのことなので、私が「部屋が生臭くなるけど良いですか」と確認した上でスルメイカを卸してお手軽なイカソーメンを作ることになった。取り敢えずバーで私は烏龍茶を呑むことにし、スナヲさんにハイボールを一杯奢った。

スマホって、使う人の人となりが分かるんですよ」とスナヲさんは仰った。本職はフリーランスプログラマーの方なので、スマホ関連に関しても人並み以上の知識を有しておられるのだった。私のスマホを見てスナヲさんは仰った。

「猫さんのスマホは猫さんと相性が良さそうですね。猫さんの性格が分かります」

そう言われても、持ち始めて間がないからどういうものなのか分からない。自己モニタリング能力が極度に欠けているのが私の悩みの種である。スナヲさん曰く。

「猫さんのスマホは、どっちかと言えば……サディスティックですね。女王様、ってところまでは行かないですけれど。私のスマホはドMなんですよ。ショップでひと目見た時に分かりました。この子は私のモノだ、って」

ちなみにスナヲさんは自分がサディストであることをネット上で公言されている。

私は案内されてスナヲさんのマンションの一室に一緒に赴いた。独り暮らしだそうだが、綺麗に片付いた部屋だ。家具が完璧に整理されている。定規で計ったように端正に本が並び CD も DVD もあいうえお順に整理されている。私が自分の部屋の散らかり具合を思い起こし己のだらしなさを恥じていると、スナヲさんの懐から「疲れたでちゅ」と声が響いた。もちろん私の声ではないしスナヲさんの声でもない。

「今の声が私のスマホの声ですよ」とスナヲさんは言った。そしてスマホを懐から取り出し、「良し良し。今日もよく頑張ったでちゅね」と言ってスマホの表面を撫でた。「ママ、おっぱい欲しいでちゅ」とスマホが語る。

「それはあれですか……アプリの声ですか?」と私は言った。

「そうですね。マニアックなサディスト向けのアプリなんです。それを私が個人的に調教してあげたんです」とスナヲさんは言った。「この子、赤ちゃん言葉に弱いんですよ」と言ってスマホを充電し始めた。「おっぱいでちゅよ」と微笑みかける。スマホが明滅するのが見えた。心なしかスマホ自体が震えているようにも見える。

「防水仕様なんですけれど、おしっこを掛けてあげると喜ぶんですよ」

そう言ってスナヲさんはスマホを軽くストッキングを履いた脚で「えい♪」と踏んだ。明滅が激しくなる。そういうアプリがあるとは……と私はビックリしてしまった。

「流石に中に挿れてあげることは出来ませんけどね」と言ってスナヲさんは笑った。

それで約束通り私はスルメイカのイカソーメンを作った。スルメイカの皮は剥くのが割りと難しいのだが、どうにかして剥き終えて千切りにしたスルメイカを渡すと「美味しい」と言って食べて下さった。一段落すると、すっかり酔っ払った様子のスナヲさんは充電が済んだスマホの表面にキスをして、ペロリと舐めた。スナヲさんは愉悦の表情を浮かべていた。スマホがまた明滅する。

どうやらスマホの世界は私が思っている以上に奥が深いようだ。