読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

目玉の話

Dream A Garden [帯解説・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC460)

Dream A Garden [帯解説・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC460)

 

眼鏡っ子の恋人を持っていた時期の話。だから今からウン十年前のことになる。私は当時から植芝理一ディスコミュニケーション』という漫画が好きなので眼鏡っ子には萌えを感じていたのだけれど、「貴方はなにも分かってない」と彼女はぼやいた。当時の私は眼鏡を掛けていなかったのだ。

「眼鏡なんて辛いだけよ」と彼女は言うのだった。「すぐ汚れるし、鍋物の時はなにも見えなくなるし。値段だって高価いのよ」

私は「でも、君は魅力的だよ。眼鏡がないと魅力は半減すると思う」と言った。「眼鏡を外してコンタクトレンズを入れられると、君を好きになれる理由がなくなるかもしれない」と。我ながら鈍感なことを言ったものだと、書いていて失笑してしまう。お叱りの言葉もあるかもしれない。

すると彼女は「そうなの? じゃ試しに眼鏡掛けてみる?」と言った。いきなりそんなことを言われても、私は目が良いのだから眼鏡を掛ける理由がない。戸惑っていると彼女は私のこめかみを押した。すると前が見えなくなる。一体どうなったのか、停電なのかと思って慌てていると、じきに視界が開けた。だが、その光景はぼやけている。

「どう?」と彼女が言った。「貴方の目玉と私の目玉を交換したの」

それで確かに近眼の彼女の視界は見えづらいことが分かった。のは良いけれど、どうやって目玉を交換したのだろう。訝しく思いつつ「分かった。近眼って辛いんだね」と納得して言うと彼女は自分のこめかみを押した。ポン、と音を立てて目玉が飛び出る。私は自分のこめかみを押した。しかし目玉は巧く飛び出ない。戸惑っていると彼女は私のこめかみを押した。どうやら眼球を飛び出させるのにもコツがあるらしい。

私たちは目玉をお互い自分のものに戻した。それで事なきを得たのだった。近眼の彼女は辛いのだろうな、と。

結局彼女とは別れてしまい私は今では老眼鏡を掛けるようになったのだけれど、この歳になって彼女のぼやいていた言葉が徐々に身に沁みて感じられるようになった。