踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

呑ん兵衛 二題

PERSPECTIVE (SHMCD)

PERSPECTIVE (SHMCD)

 

ネットで拾った話をふたつ。どちらもお酒は怖いな、と思わされた話でもある。

とあるところにアルコール依存症の方が居た。私が断酒会で習った話だと呑ん兵衛の寿命は大体五十代前半と決まっているそうだが、その人は四十代前半、つまりこれから人生始まるという時になって亡くなってしまったのだそうだ。肝硬変が原因だったという。

それで葬儀が行われた。遺体は棺の中に収められ、火葬された。そして残った遺骨を調べているとゴロンと見たこともないような塊が転がっていた。灰色に変色したそれは三角形の形をしていて、角が丸まっている。手のひらに納まらないくらい大きい。石器時代の武器に使われていたような石のようでもある。一体これはなんだ、異物が混じったのではないかと騒ぎになった。すると葬儀社のヴェテランの社員の方が、その騒ぎを見てひと言言った。「心配するには及びません。それは肝臓です」と。

「この方は酒の呑み過ぎで亡くなられたんですよね。極稀にそういうことがあります。重度の依存症患者は肝臓が固まってしまい、鉄よりも固くなってしまうので火葬されても燃え残るのです」とのことだった。

拾ったその話を知って葬儀社の知り合いに訊くと「おれは見たことがないけれど、そういうことってあるらしいな。頑固者の親父の遺体の骨を調べたところ脳がカッチカチに固まって残ってたとか、ボディビルダーの遺骨を調べたら筋肉が燃え残っていたとか、そういう話もあるんだってよ」とのことだった。「一番悲惨なのは乳癌で亡くなった女性のしこりが燃え残っていたという話だったな」と。

さて、私が亡くなったら一体なにが残るのだろうか。軟弱者な私としては骨さえも残らずにただ灰だけがザラザラと残るだけのような気がしているが、長年痛めつけて来た肝臓はレアに焼け残ってしまうのかもしれない。明日は我が身だ。

もうひとつ。これも呑ん兵衛の話。ヤフー知恵袋か何処かで拾ったのだった。

呑ん兵衛の男が居た。彼は幸いにして四十代になっても元気なのだけれど Γ-GTP が千に届くほど酒を呑んでいるのだという。ちなみにこの数字は百を超えると「お酒は控えるように」と医師から警告されるものだ。つまり、明らかに肝臓を痛めている。

それで彼自身も酒を止めるべく努力していたそうだけれど、かつての私みたいに巧く行かなかった。午前中は我慢出来るのだけれど、午後になると呑みたくなるのだそうだ。彼は妻帯者だったのだけれど、質問の投稿者である奥さんも男のこの飲酒癖に悩まされていたという。

なにせ、酒はタダで手に入るものではない。カネが当然それなりに飛ぶ。また、家族もその男の健康を心配する。もちろん子どもの教育にも良くない。例えば目の前で息子が料理中に手を切るという重傷を負った時も、「男なら唾をつけたら治るだろ」と取り合わず酒を呑み続けていたのだった。依存症の心理というのはそんなものである。

どうしたら良いのか、家族は悩まされている。そんなある日、ふと奥さんが真夜中に起きた。午前様で帰って来た旦那がスーツ姿のまま寝ている。吐瀉物こそ枕元にはないが、風邪を引くのではないかと身を案じていたところ、その彼の口がぽっかりと開いた。中から、直径四センチほどの蛇が現れた。

頭を口からもたげて動く蛇の姿に奥さんがビックリしていると、ニョロニョロとその蛇は様子を伺うようだ。奥さんに気づいた様子はない。この光景を見逃してはならないと奥さんは思ったのだそうだ。蛇は果たして、体長一メートル半ほどの長さの身体を口から出した。それであたりを彷徨っていた蛇は、台所に向かって進んで行った。目で後を追う。

台所には酒類は置いていない。そういうものを隠すように奥さんと息子は努力しているのだ。たまに何処から買って来たのかワンカップや発泡酒の壜や缶が転がっていることもあるそうだが……それで蛇が狙いをつけたのがみりんだった。みりんが入ったボトルを蛇はもちろん開けることは出来ないので、ボトルに巻きつきしがみついている。それで朝が来ると蛇はその身体をくねらせながらまた奥さんの居る寝室に戻って来た。そして旦那さんの口の中に入り込んだのだという。

「あれをうわばみと呼ぶのかもしれないと思った」と奥さんは綴っていた。「今度見つけたら殺してやろうと意気込んでいる」と。だけれど知り合いに相談したら「万が一、その蛇が旦那の命だったらどうするの? 絶命しちゃうよ?」と返されたという。「どうしたら良いのか悩んでいます」と括られていた。

それはもう霊媒師に頼むしかないのではないか、と私は思いながらその話を読んだ。ちなみに我が家では断酒中の私に配慮してみりんは置いていないし、酒粕を使った料理も作っていない。もちろん甘酒やウィスキー入りのチョコレートや酒饅頭なんて御法度だ。スタミナドリンクもアルコールが入っているものがあるので気をつけて呑んでいるくらいなのだから……断酒というのはそんな風に、実は結構骨が折れることなのだ。