踊る猫の生活

創作のような日常/日常のような創作

十二支

除夜の鐘が鳴り終わると、玄関をノックする音がした。誰なのかは分かっている。ドアを開けてみると、果たしてそこに居たのは猿だった。

「あけましておめでとうございます」と私は言った。

「あけおめ」と猿は不貞腐れた表情で言った。「もう疲れたよ。肩も凝った」

それで私たちは炬燵に入り、遅くなった年越し蕎麦を食べたのだった。バックには Apple Music からビートルズを流している。

「もうやってらんねーよ」と猿は言う。「十二年に一度とは言えこれだぜ」

「干支を引き受けるのも大変だね」と私は言った。

「ったく、おれたちの祖先がなにを考えて干支に選ばれに神様の下に行ったんだか分かりゃしねえけど、お陰でおれたちは十二年ごとにこんな厄介な役回りを引き受けなくちゃならなくなるんだ」と猿は言って蕎麦を啜った。

「お勤めご苦労様」と私。

「この蕎麦旨えな」と猿。「お前にしちゃ良く出来てる」

「私が作ったわけじゃないよ」と苦笑せざるを得ない。「買い置きだよ」

「お前の味覚も十二年前と比べてちったあ成長したってことだな」

「十二年前のことなんて忘れたよ」

「今年は鶏の野郎が干支だ。あいつらは気楽で良いよ。鶏頭って言うけれど、あいつらには苦悩がないからな。仲間共がケンタッキーフライドチキンかなんかで散々食われてるのにも関わらず、呑気に干支を引き受けてる。おれたちはお前ら人間とさほど知能も変わりゃしねえのに、干支なんてものに選ばれてその年一年雁字搦めだ」

「お疲れ様」

「十二年前か……お前はまだケツの青いガキだったな。あれからどうだ? なにか変わったか? 味覚は成長したみてえだけど」

「相変わらずだよ。音楽を聴いて、本を読んで、映画も観るようになった。でも、平々凡々な暮らしが続いてる」

「世の中どんどん酷えことになってるみたいだけどな。ま、猿のおれには関係ないけどな」

「泊まって行くの?」

「いや、もう肩が凝ってしょうがねえんだ。箕面の猿山に帰りてえんだ。あそこでゆっくり湯治してえ」

「元旦に風呂に入ると縁起が悪いって言うよ」

「人間様の理屈なんて関係ねえよ。おれは丸一年風呂に入ってねえんだ」

それで猿は蕎麦のつゆを飲み干すと、「あー、旨かった。有難うな」と言って立ち上がった。

「もっとゆっくりして行けば良いのに」と私は引き止めた。

「おれはとっとと箕面に帰りてえんだ。母ちゃんがおれを呼んでる」

「そうか。残念だな」

「それじゃな」

猿はそう言って、私の家を出て行った。ジョン・レノンが、「みんななにかを隠してる。おれと猿だけは別だけどな」と歌っていた。

これから十二年後、箕面の猿山から降りて来た猿と私はまたブツクサ年末年始の愚痴を言いながら蕎麦を食べることになるのだろう。その時までに私が変わっていられれば良いのだけれど。